エピソード92:雪

  南国土佐に住む高知県人にとって「雪が降る」という現象は、センセーショナルな大スペクタクルである。どんよりとした空からチラホラとホコリのような雪が降ってきただけで、「いや、雪や!」「早う見て見て!」などと口々に騒ぎ立て、スマホをかざしてSNSにアップする。大昔私が高校生だった時、2cmの積雪を記録したことがあった。当時はあちこちでスリップ事故が多発し(父も菓子折り持って行ったクチ)、学校は休校になった。雪耐性が無いというのは、いよいよ難儀なことである。

  なぜ私がそんな上から目線なのかというと。大学時代を東北の仙台で過ごしたからだ。仙台は東北でも温暖で雪が少ない。せいぜい降って高知の山間部くらいだろう。しかし、初めて東北という未知の世界へ行く18歳の私には、何もかもが謎過ぎた。「やはり頬っぺた真っ赤な人が、『〜だべさ』とか言ってるんだろうか」なんて本気で思ってた(注:そんな人いません)。冬がどれほど寒いのかも分からない。とにかく厚着をして受験した気がする。

  晴れて大学生になった私。女子寮に入ってみてまず目についたのが、部屋の壁に付けられた配管むき出しの装置である。「何やろコレ?」高知ではまず見たことがない。そりゃそうだ。これは「スチーム暖房」という、超強力な暖房なのだから。起動する時に「カンカンカンカン」と大音響がし、配管の上に干した洗濯物は瞬く間にパリパリに乾燥するという、すごい暖房である。ちなみに大学も寮もスチーム暖房はあったけど、冷房や扇風機は無かった。それでも快適だったから(学校は山の上だったし)、やはり気候は違うもんですね。

  周りは東北人ばかりだから、雪なんて見た途端に皆が皆「嫌(や)んだ〜雪(ゆぎ)降ってる」という反応。やはり雪国は「雪=迷惑」という感覚なんだろう。雪を見て喜んでるのは私だけだった。ちなみに雪の日に傘をさしてると、雪が積もって段々重くなってくるのだ。本当の(?)雪国から来た人は、傘をささない人が多かった。寮の食堂で宴会してる時、窓を開けて積もった雪の中から缶チューハイ出してたのも懐かしい。今年の冬は雪が降るかな?



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