エピソード78:お彼岸

 子どもの頃のお墓参りといえば、家族総出で行う一大イベントであった。今のように高知市内にある霊園でささっとお参り、というわけには行かない。香美市土佐山田町の山中にある古~いお墓の群れ群れを前に、祖母より語られる先祖代々の言い伝えを神妙に聞く、由緒正しき行事だったのだ。

 お墓にお供えするお菓子を準備するのは、祖父の役目。この祖父、大正生まれの割にハイカラな人で、例のハイパープラザへ男1人で買い物に行くような先進的な人物であった。祖父チョイスのお菓子は、子どもの私達の食欲を刺激するものではなかった。なんでポテトチップスやチョコレートじゃないんだろうと、いつも思っていた。だって用意されるのはいつだって、「フローレット」という砂糖の塊のようなバカ甘いお菓子に、寒天を押し固めてこれまた砂糖をまぶした毒々しい色のお菓子。これ、口に入れると歯ににちゃにちゃ引っ付いてすごく嫌だった。まだマシなのは「鯛あられ」で、鯛の形をしたうす甘いあられ。ちなみにお墓参りの時以外には見たことが無い。時々ブルボンの「ルマンド」が出ようものなら、小躍りして喜んだ。個人的に、墓石の前で蚊に食われながら食べるルマンドほど美味いものは無いと思う。

 祖母の語るご先祖さまの話は、ウソかホントか分からないけど面白かった。『この人はひい爺さんのお爺さんで~』みたいにルーツを遡って行くのは、子ども心にもワクワクした。結構昔のお墓も残っていて、江戸時代のものまであった。ちょっとしたファミリーヒストリーである。今思えば、とても貴重な経験だったなあ。

 帰りには、大叔母が沢山のおはぎを作って持たせてくれた。大叔母が父のことを「~君」と呼ぶのが、新鮮に聞こえたことだった。大叔父は祖父とよく似ていて、血のつながりを感じた。2人が並んでいるのを見て「似いちゅう!似いちゅう!」とはやし立てたっけ。

 おじいちゃんもおばあちゃんも、似いちょったおんちゃんもおらんなった。おばちゃんはまだ元気やろうか。おばちゃんの作ったおはぎが、うんと食べたい。 



コメント

このブログの人気の投稿

エピソード104:取材

エピソード99:県営渡船と御畳瀬の町

エピソード103:夢あれこれ