エピソード30:番外編・躁と鬱②

  ジェットコースターの真上に来たら、あとは落ちるだけ。ものすごい重力には抗えず、真っ逆さまに落ちていく。自分の力ではどうにもならない、これが双極性障害の「うつ状態」。よく『うつ病?甘えとか怠けなんじゃないの?隣に1億円の札束置いた途端に治るんでしょ。』とかいう誤解や偏見があるんだが、甘いのはそっちの方だ。そもそもうつ状態に陥ったら、隣に置いてある1億円の札束にすらたどり着けない。

 鉛の鎖にがんじがらめにされ、さらにコールタールの沼に沈められているかの様に重く動かない身体。その上あらゆる箇所に痛みを感じる。目も開かない。呼吸するのがやっと。頭は灰色の綿が詰まったかのように朦朧とする。これがうつだ。少し上向きになると、今度は自分の些細な欠点を責めまくる。生きていたって仕方ない。いるだけで迷惑な人間なんだ。そんなことばかり頭に巡る。

 ここで考え方のクセをうまくコントロールして薬を服用すれば完治するのが、いわゆる「うつ病」。しかし私の「双極性障害」はうつ病と異なり、一生気分の波に翻弄されてしまう。波を穏やかにする薬をずっと飲み続けなければ、生活すらままならない。少しのストレスで容易に崩れてしまうため、毎日が綱渡りだ。

 大学在学中に発症したので、もう人生の半分を双極性障害と付き合っている。結局大学は中退した。貯金は失った。人は遠ざかって行った。仕事はできなくなった。それでも私は『今日はお風呂に入れた』『ひとりで買い物に行けた』という日常のささやかなことに喜びを感じながら生きている。




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