エピソード16:ぐいみ

  なかなか屋外で遊ぶことが難しくなった昨今。ただでさえ野外で遊ぶ子ども達を見かけなくなったというのに。だがまだ私が子どもの頃は、スマホもゲームも無く、よく野遊びをしていた。友達の中には必ず歩く図鑑のように詳しい子がいて、草花の名前も友達から聞き自然に覚えたものだ。

 土佐清水市に一年だけ住んでいたことがある。保育園の砂場の脇に、「ぐいみ」の木があった。ぐいみの木など、見たことも聞いたこともない当時の私。『それ、食べれるがで』と教えてくれたのはやっぱり周りの友達だった。

 季節になると、ぐいみは楕円形をした赤い実をつけた。見るからに美味しそうである。一粒ちぎり、口に入れた。「……⁉︎」とろけるような甘い味がするという予想を大幅に裏切り、口にしびれが来る不思議な味がした。とは言え、おやつに飢えていた私にとっては絶好のデザートだった。毎日毎日砂まみれの手で口に放り込み、種を吐き出してははしゃぎ回っていた。

 高知市に帰って来てからは、ぐいみを見ることもなくなった。むしろ、そんなものを喜んで食べていた自分が恥ずかしいとまで思うようになっていた。

 「♪しゃしゃぶのいとこはぐいみ~♪」という高知のわらべ歌がある。この歌の意味が分かるのは、私の世代で終わりなんじゃないだろうか。楽しかった土佐清水の保育園を数十年ぶりに訪れると、すでに閉園されていた。あのぐいみの味は、永遠に幻となってしまった。





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